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デザインの仕事は②

「自分らしさとされているものに照準を合わせた瞬間に仕事というものがなくなるだろう。」(中略)こうした考えの裏には、当時の日本のイラストレーターが作家性とか個性とか、「自分らしさ」みたいなものに拘泥(こうでい)して、現実のビジネスとしっかり対決してこなかったから、イラストレーターの報酬は低く、本物の個性が次から次へと消費されているんじゃないかと。

すごく時間をかけて丁寧に作っても「十万円儲かりました」みたいな規模という、標準的なイラストの仕事のやり方ばかりしていては、ぜんぜん自由を取得できないだろう、という。

 

寄藤文平「デザインの仕事」より

 

2014年の5月、一般のクリエイターによるLINEスタンプの販売が開始されました。当時はそれが凄い追い風で。仕事の依頼が増えて、せっせと原稿通りのスタンプイラストを描いて出してを繰り返してました。著作は譲渡で手から離れたら永遠のサヨナラ。今はもう膨大なスタンプに埋もれてしまって地層深くで生きているかさえわからないイラストの子たち...。

その当時、依頼で多かったのが「寄藤文平さん風なタッチで描いて」だった。凄くイラストを探って真似させていただいた時期でもありましたし、個性を捨てて描き倒した時期でもありました。それは良い意味で、トレーニングにはなったんですけどね。

 

でも楽しかったのは、半年くらい。一年する頃には膨大になった「クリエイターズもどき」な自己満足スタンプと、カナヘイさん初め「勝ち組」スタンプと二極化していく。動くLINEスタンプや動画スタンプ、3Dが出る頃には「クリエイターズスタンプでは食えない」状況と悟って見切りをつけたし、後半に至っては「売れたらの成功報酬 」だの値引き合戦のコンペ形式でウンザリだった。舞い上がっていた自分には、大切な何を「売り」にすれば良いのか、というものが欠落していた。最終的には無理難題な要望に対応するうちに利益なんてちっとも残らなかった。苦い経験である。

 

 デザイン業界は、良くも悪くも、「テンプレートがあればいいだろう」みたいな世界にどんどん近づいていっているようにも見えます。

 2015年に起きた、東京オリンピックパラリンピックのエンブレムをどうするのか、という問題から生まれた議論は、僕にはそんな流れがひとつの極点に達したことを示しているように見えました。

 

(中略)

 

しかし、僕の感じた敗北感というのは、ひとことで言えば、僕はあのエンブレムのデザインが好きだったのです。

 

(以下、抜粋まとめ)

 ロジックやストーリーといった道具は、多く使いすぎるとインフレが起き、他と差別化ができなくなる。→頭で組み合わせたロジカルなストーリーではなく、一種のポエムというか、直接、情緒に訴えかけるような物語によって差別化していく→たとえて言うなら、いろいろ手紙を書いたり、いろいろなイベントに誘ったりして意中の人に好きな気持ちを伝えようとする人が万策尽きてしまって直接会って「好きだ」と正面から告白するしかなくなるとでもいいますか(中略)原始的なところでのコミュニケーションになっていくわけです。

 情報技術の発達といっしょに、世の中でのものの捉え方が、それを語るストーリーを前提にするようになっていますよね。(中略)一方で、より有効なコミュニケーションは、例えば個人の「気持ち」というような根源的なものに集約されていくわけです。

 

ある出来事をアイコンとして、とても大きな社会的ストーリーが、それを背負うことなどできない個人の実存とでも言うべきものと貼り合わされてしまうといったことが起き始める。そういう流れのひとつの極点がエンブレム問題だった、という風に僕は捉えているんです。

(中略)

これは、現代のコミュニケーションやデザインというものが抱えている進行性の問題です。

 

現代のコミュニケーションにおける危惧性は、デザインの世界だけでなく、メディアの方向性や、製造業のねつ造・改ざんの社会問題からも「ちょっとおかしいぞ」みたいな現象は加速していて、情報化社会が便利になればなるほど、自分はなんだか違和感を感じていたりします。

 

デザインの存在証明が、承認欲求が、どうもハリボテなのではないかという危うさがあって、結局は原始的なところでの「心で、人と触れ合うこと」「直接、会うこと」が必要になってきている。または、根源となるストーリーが何処を向いているのか。そこが曖昧で排他的だったら、心にも訴えられないし、お金だって残らない。デザインの隅っこ部隊だけどさ、大事な主張を見逃していやしないか。

 

本日はここまで。

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デザインの仕事

デザインの仕事

 

※前回のまとめ。